理恵と俺がはじめて会ったのは、人数合わせで参加した合コンでのことだった。
俺に電話がかかってきたのは合コンの前日のことだった。
相手はサラリーマンをやってる友人。高校時代の同級生だ。
サラリーマンとはいっても一流企業の出世頭で、肉体労働者の俺とは全然収入も違う。
高校でも特進科と工業科ということで接点も少なかったが、クラブで知り合って以来、意外に気が合って、付き合いが続いていた。
用件は、奴が幹事の合コンに欠員が出てしまったので、来てくれないかという話だった。
どうも、会社関係の知り合いが誰もが予定が合わず、とうとう俺にかけてきたらしい。
最初は断った。
俺は女遊びは好きだが、だからといって場を乱すのは好きじゃない。女遊びは一対一でやるものだと思っている。
だから合コンと聞いても、食指は伸びなかった。
参加したことはなかったが、抜け駆けがどうとか、面倒くさいイメージしかわかない。
第一、奴の人脈からして、来るメンツはどう考えても一流企業の連中が中心だろう。
そんな場に俺が混ざるのは、どう考えても居心地がわるい。
だが、奴は粘った。なんとか形だけでも人数は男女同数でそろえておきたいらしい。
ごねたのだが、もし嫌な思いをしたら後で十分に詫びはするとまで言われたら断れなかった。
結局、俺は電話のあと、急きょ明日着ていける洋服を見繕う羽目になってしまった。
当日行ってみると、案の定だが、俺は場違いだった。
メンツはあわせて10人ちょいくらいだったが、自己紹介の時点で男も女もベンチャーだったり一流企業だったり、そんな奴がほとんど。
タイプは派手な奴も地味な奴もいたが、話す内容は俺にはわからないことばかりだった。
聞いた感じ、仕事がらみの話が多いようだったが、俺はそういう業界のことを全く知らないので、単語からして意味が分からない。
だから、俺はとにかく時間まで適当に相槌を打ってやり過ごすつもりだった。
運のいいことに、俺の体面に座った女の子は、俺の隣に座っていた男が好みだったようで、そちらに関心が行っていた。
これなら、下手に話を合わせたりする必要はなさそうだ。
友人のメンツも、これで問題なくたつだろう。
宴会が盛り上がる中、俺は適当にフンフンとうなづいていたが、ふと自分の対角線上に座っている女の子に目がいった。
なかなかかわいかったが、それが理由じゃない。
何か、雰囲気が場違いなのだ。会話はしていたがあまり盛り上がっている風でもないし、他のメンツと違ってがっついたムードがない。
その子が、理恵だった。
そのうち、席替えタイムになった。
意気込んでいるメンツの邪魔をするのも悪いと思った俺は、理恵の対面に座ることにした。
他の男メンツからも異論は出なかった。どうやら、盛り上がっていないと見たのは間違いではなかったらしい。
席替えが終わると、他のメンツはあっという間に盛り上がり始めた。
俺と理恵だけが、隅っこで取り残された形だ。
まあいい。俺としては気を使わなくていい分ありがたいし、さっきの調子だと彼女も似たようなものだろう。
とはいえ、さすがに黙っているのはまずいので、理恵に話を振った。
「どうも、改めましてよろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」
もちろん、これも形だけのつもりだった。
ところが、意外に話が盛り上がる。
確か、自己紹介ではどっかのベンチャーの事務だとか言っていたはずだが、話題的にも、単語がわからないというようなこともない。
それに、さっきまでと理恵の様子がどこか違う。がっついている感じはやはりないが、ノリが心なし良くなっている。
特に目立ったのが、やたらに俺の筋肉を褒めてくることだ。
職業柄、俺は他のメンツに比べるとはるかに筋肉質だが、それが女関係に役立ったことはなかったので意外だった。
筋肉フェチなんだろうか。だとしたら、もしかしてこの子は脈ありかもしれない。
とはいえ、さすがに知り合い主催の会の途中でやらかすのはまずい。俺はつとめて穏便に会話を進めた。
それはそれでさっきまでよりはずっと楽しめたのだが、合コンというものはやはり好きにはなれないと思った。
やはり、女遊びは一対一が一番だ。いちいち面倒くさくて仕方がない。
そのうち、1次会が終わった。2次会にはならず、その日は解散ということになった。
合コンの終了後には、反省会がよく行われると聞いていたが、今回はどうもそういうわけではないらしい。
アドレスだけ交換して、俺はおとなしく家に帰った。
もちろん、理恵については少し未練が残った。
友人との絡みもあるから、こちらから手を出すのははばかられた。
かといって、向こうから連絡してくるかというと、微妙な気がする。
もしこれで終わりだとしたら、もったいなさすぎる。
とはいえ、どのみち今回誘われなければ、最初から縁のなかった相手だ。
それはそれで仕方がない。そう割り切った。
ところが、数日後、理恵から早速メッセージが届いた。
挨拶のような簡単な内容で、真意は測りかねたが、無視する理由はない。
早速返事をすると、二通目が来た。
文面をみて驚いた。内容を少し抜粋すると、こうだ。
「わたし主婦なんですけど、友達に頼んでこっそり参加させてもらったんです。だましちゃってごめんなさい。」
がっかりしなかったかというと嘘になる。
仮に脈ありだとしても、さすがに人妻と遊ぶのは危ない。
ただ、ここで何も返信しないのもあからさますぎる。
俺は結局、いいよいいよ、といった無難な内容で返事を返した。
すると、また次のメッセージが来る。
結局、俺はかなり長い時間、スマホをひたすらいじくっていた。
何度もやりとりを交わしたあげく、気が付くと俺は、彼女と次の週末に会う約束をしていた。
こういうとなんだが、絶妙にのせられた感じだ。
まあ、ただ友達づきあいをしたいだけの可能性もあるしな。そう自分に言い聞かせた。
そして、約束の日が来た。
待ち合わせ場所の喫茶店で待っていると、ほどなく理恵がやってきた。
どうみても人妻にはみえない。格好も、いかにも清純なムードのブラウスとスカート。
改めて見た彼女は、見た目年齢は俺よりも年下に見えた。
「こんにちは!今日は付き合ってもらってすみません」
「ああ、別にいいっすよ」
さて、どう出るか。
俺は珍しく迷った。
ナンパとかならともかく、今回は相手がどういうつもりなのかまったくわからない。
だが、俺があれこれ考えるまでもなかった。
挨拶を交わして少し世間話をした後、理恵は単刀直入に、ホテルに誘ってきた。
まったく、女はわからない。
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