そんなに広いとも言えない、しかも日当たりのよくない四畳半です。
常によどんだ空気の満ちたその部屋が、もともとあたしは好きではありませんでした。
「はむっ…はふうぅぅ…」
ぬちゃっ…ぬちゃっ…
そんな部屋に波紋のように広がっていく、小さな音。
母親の唾液が、父親の肉棒の表面で立てていたその音は、今でも忘れようにも忘れられません。
四畳半の薄暗さを思い出す時、決まってセットで思い出される記憶です。
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「ふう…っ…うまいな、やっぱりお前…」
「ほう?」
父は、肉棒を丸ごと飲み込んだ母親を見下ろして、感嘆の声を漏らしました。
母は恍惚とした目をして、しゃぶり続けています。
あたしは、それを正座させられて、真正面から見ていました。まるで、お説教でも食らうかのように。
「ほふぅ…」ぐちゅっ。
「はふ…うむぅんん…」べちょっ…
べっとりと湿った音はいつまでも続きました。
「どうだ。これがフェラチオというんだ。こんなことまでは学校の教師は教えてくれなかったんじゃないか?」
父はあたしを振り返り、得意げな顔をして言いました。
「う…うん」
返事をしました。ただ、ポジティブな感情は一切抱いていませんでした。
汚らしい。あたしの中にあった感情は、ただそれだけでした。
父の肉棒も、毛むくじゃらの下半身も、そして、それをためらいもせずに口に含み、舌を這わせる母親にも。
「そうだろうそうだろう。これが、自分の目で確かめるってことだからな…おっと」
父はやはりご満悦でした。あたしの感情には気づきもせずに。
それが、ますます恐怖感を高めました。
この人たちは、あたしのことなんて何も見ていないし、考えていない。
ただただ、自分たちの信じていること――しかもそれはことごとく非常識な――がすべてなんだ。
教育なんて言ってはいるけれど、自分たちの信じるやり方を、あたしで実践したいだけなんだ。
あたしは、ただのおもちゃみたいなものなんだ――
そう実感せざるを得ませんでした。
それまでも薄々感じたことはありましたが、彼らがあたしに対して、一片の愛情さえもっていないことをこれほどはっきり確信したのははじめてでした。
今ならそれはそれで仕方ないと吐き捨てれば済む話ですが、生活の術をまだ持たなかった当時のあたしにとっては、その事実は恐怖でしかなかったんです。
べちょっ…ちゅぱっ…
母親のしゃぶり方は次第に熱を帯びてきましたが、あたしは考えれば考えるほど、気持ちが悪くなってきました。
吐き気さえしていましたが、本当に吐いたらどうなるかは見えています。
それに、一応でも熱心に見ている振りもしないと…
そう思って目を見開きましたが、本当に、演技でしかありませんでした。白々しいほどの。
万が一、彼らが普通程度に観察力があったら、すぐに気が付いたことでしょう。
それにまったく気づかなかったことで、あたしへの無関心さは明らかなんですが。
「うむっ…」
どれくらいたったでしょう。父親は、至福の表情で目を閉じ、娘の目の前で母親の口の中に射精しました。
精液が、容赦なく母の口の中いっぱいに広がり、そしてあふれ出ました。
―――――――――腐ったミルクみたいだ。
母親の顎から垂れ落ちていく大量の精液を見ながら、あたしは冷たくそう思いました。
「ふう…お前、飲んでくれればいいのに」
「あたし、嫌いだって言ってるじゃない。飲むのは」
「はは、まあ、そうだけど、こういう機会だからな…」
「いい?お父さんはこんなこと言ってるけどね。飲みたくないなら男にはちゃんと言わなくちゃダメよ」
それ以前に、あんたみたいにしゃぶらないわよ。
口の中を精子でべとつかせた母親の姿を、あたしは他人事のように見ていました。
「はは、まあ、それはいい。本番は、これからだからな」
「そうね。これがセックスよ。ちゃんと見ておきなさい」
そう言いながら、母親がゴムを取り出して、父親のアソコに口で装着しました。
父親の肉棒は、射精直後だというのにもう勃起していました。
比較的若かったとはいえ、年齢からしたらあり得ない回復力でした。
「さあ、いよいよ挿入だ。よく見えるようにしてやろう」
「しっかり見てるのよ。あなたも将来、同じことをすることになるんだからね」
父親は母親の足の間に入り、自らも足を大きく広げて膝立ちしました。
たしかに、この姿勢だと、あたしの位置からは結合部が丸見えです。
母親のどす黒いアソコが、ベットリ濡れているのがハッキリ見えました。
だからといって、なんの感慨もありません。
あたしが考えていたのは、同じことは絶対にしまいという決意だけでした。
セックスそのものは、いつかすることになるんだろう、多分。でも、自分の子供に、こんなことをするような親には絶対になるまい。
それだけでした。こんな親になるくらいなら、死んでやる。
それくらいの嫌悪感が、心にふつふつと湧いてきます。怒りと言った方が正確なくらいだったかもしれません。
彼ら自身の意図に反して、親離れという意味に限れば、彼らの教育は大した効果でした。
ただ。彼らの言葉通り、本番はこれからだったんです。
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ぐちゃっ!ぐちゃっ!ぐちゃっ!
母親の膣の中に激しく出入りする、父親の醜い肉棒。
その表面に浮き出た青い血管までが、嫌でも目に入ってきます。
「あはあん、あなた、いいわあ!ち●ぽ、いいわあっ!」
「どうだっ…この辺、いいだろおっ!」
「さすが、よくわかってるわね…ああっ!」
あられもない声を上げる、両親。
あれくらい教育教育言っていたくせに、挿入した途端に、あたしには一切声を掛けてこなくなりました。
あたしのことが完全に頭から消えてしまったようです。
ただお互いの快楽のことだけしか、考えていないのが見え見え。
別にそれを悪いとは言いません。
問題は、あたしをそれにつき合わせていることです。
そんなことにも気づかない彼らが、あたしはむしろ哀れにさえ思えました。
「お…お前のま●こ、やっぱりいいなあっ」
「そうでしょっ!あなたのも…何回してもいいわあ!ああんっ!」
恥知らず。
その言葉を、あたしは何度頭の中でつぶやいたかわかりません。
最初は、動物みたい、と思いました。
一度だけ過去に、犬が交尾しているのを目にしたことがあったので、それを連想したんです。
ですが、すぐに思いなおしました。
動物以下。
動物みたいなんて言ったら、犬や猫に失礼だ。
「ああんっ…あ、あふれてきちゃう…と、とまんなあいぃっ!」
「止まるなよ…もっと、溢れさせてやるよっ!」
「あ、ああはぁぁぁぁっ」
今でもあたしは、犬や猫が盛っていてもなんとも思いません。
それは、自然の姿だって思えるから。
だけど、やってることは同じでも、自分たちの言葉で陶酔していく両親の姿は、ただ醜いものとしか思えませんでした。
普段インテリぶっている分、余計に。
「ひ、ひいっ…こ、壊れる…あたしの中、あなたのち●ぽで壊れちゃううぅっ…」
ひと際高い母親の声が四畳半に響きました。
間髪入れずに、ぶしゃっと、接合部から液体が噴き出しました。
布団の上にまき散らされたその液体が、うっすらと湯気を上げます。
そして、ワンテンポ遅れて、微妙な臭気があたしの鼻を突きました。
おしっこ。
あまりにも激しく突かれすぎたせいでしょうか。
母親は、おしっこを漏らしてしまったんです。
「お…お前…いいぞっ…すごく…いいぞっ!」
「や、やあんっ!び、敏感になってるのにぃ!あっ!」
信じがたいことに、父親も母親も、ますます興奮していました。
あたしはもう、呆れかえってそれを見ていました。
こんなのが両親だなんて、信じたくない。
まして、この二人がこういうことをして、その結果あんなぐちゃぐちゃの穴から自分が生まれたなんて、悪夢でしかありません。
もう考えるのも嫌でした。
自分の目を潰したい衝動さえ湧いてきました。
ですが、その直後。
あたしの心は、すっと冷静になったんです。
いえ、冷静というのとも少し違っていて、動揺や怒りといったものが、丸ごと消え去ってしまった感じ。
感情そのものの起伏がなくなってしまった感じでした。
自分でも信じがたいくらいの変化でした。
続けて、凍り付くような冷たさが、自分の心を満たしていきました。
心理学を学んだことはありませんが、多分、心が限界を超えたんでしょう。
「捨てちゃえ、こんな奴ら」
それが自らの心の声だとはわかっていましたが、そのゾッとするような冷たさに、あたしは慄然としました。
ですが、同時にその声に、あたしは安らぎを覚えたんです。
ああ、そうか。そうすればいいんだ。それで、すべて解決するじゃないか。
そう、秘かに決心したあたしを気にすることもなく、両親は果てました。
やはり、恥知らずな雄叫びを上げて。
「あひいいいいいっ、いくぅ、イっちゃうううぅっ!」
「で、でるっ…」
あっけないものでした。
父親の動きが止まり、その後はゼイゼイという、情けない息の音だけがしばらく続きました。
やがて、それが止まった後、父親はようやくあたしを振り返って言いました。
「どうだ。いい勉強になっただろう?こういうのが、本当に実のある教育っていうんだ」
「…そうだね」
自分の口から出た声の冷たさに、あたしはびっくりしました。
本音がみえみえで、あたしはしまったと思ったんです。
ですが、父は、そんなことには気づきもしませんでした。
「そうか、そう言ってくれると、俺たちも身体を張った甲斐があったってもんだよ。お前もわかってきたなあ」
「…そうだね」
機械のように、同じセリフをあたしは吐き出しました。
彼らに言葉尻しかとらえる能力がない事実に、心の底から感謝しながら。
++++++++++++++++++++++++++
その日をきっかけに、あたしはもう二度と両親に期待することはありませんでした。
ただ、おいしくもないご飯を食べさせてくれるだけの存在。
それ以上の価値を見出さなくなったんです。
それで、高校を卒業した後、生活の糧を得た時点で、彼らとの縁を切りました。
根回しは完璧でした。両親の親族は意外にまともな人がほとんどで、あたしと同様に両親を既に見放している人も少なくなかったんです。
縁を切ろうとおもっている、と伝えると喜んで応援してくれる人さえいました。
外面だけはいいのが仇になって、両親はブツブツ文句を言っただけでした。こうして、事実上の縁切りは無事成功したんです。
未練も憐憫も、何一つ覚えませんでした。
あたしの18歳までの人生を――80歳まで生きるとして、そのほぼ4分の1を――台無しにしてくれたのは、間違いなく彼らなんですから。
ただ、あれからかなり経つというのに、あたしはいまだに両親への憎悪を消しきれていません。
ようやくできた友達数人には、もう許してやりなよ、と言われます。
ですが、多分あたしは自分が死んでしまうときまで、彼らを憎み続けるんだと思います。
本当に、どうしようもない人生です。
それはいいんですが、あたしは今、新たな問題を抱えることになりました。
両親を憎み続けているうちに、世の中自体までが嫌になってきたんです。
ただ、苛立つ。その辺を歩いている人も、幸せそうな同僚たちも、誰もかれもが。
その感情が両親の、あの、偏見まみれの世間への反発に似ていることに気づいたとき、あたしは自分が壊れていくような感覚さえ覚えました。
しょせん、あたしはどこまでいっても、あの両親の娘だったんです。
だから、最近になって、あたしは結婚をしないと決めたんです。
子供が出来たら、あたしはどうなるんだろう。
もちろん同じことをするつもりはないけれど、形は違っても、似たようなことをしてしまわないか。
もしそうなってしまったら、それはあたしにとって、最悪の屈辱なんです。
――――――――――こういう偏執的なこだわりが、あたしや両親の異常性の大元なのかもしれないとは思います。でも、分析したってもう意味はないでしょう。
原因が分かったところで、あたしに染み付いたこの性格は、今更どうにかなるようなものではないんですから。
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