年末商戦といったら、言うまでもなくお店にとっての稼ぎ時です。
あたしの勤め先であるデパートも、例外ではありません。店内の雰囲気も万全に整えて、お客様を待ち受けていました。毎年の風物詩のようなものです。
ただ、数年前のその年は、それだけでは済まなかったんです。
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「うちもただお客様を待ってるだけではいけない。他のお店にならって、積極的に呼び込んでいくべきだ」
上司が朝礼でそういったのが事のはじまりでした。
彼の思いつきで、あたしはクリスマス直前の寒波が押し寄せる中、デパートにほど近い街頭に立つハメになったんです。
ついた上司が悪かったとしかいいようがありません。
その上司は自称アイデアマンで、実践が大事だと言って思いつきに近いようなことを片っ端から部下であるあたしたちにやらせるんです。
しかも、たとえ休日出勤だろうが手当は一切なし。自分が指示しているくせに、上司は自主的な活動だと言い張り、ポケットマネーでご飯代を出してくれる程度でした。
これなら失敗したところで店としては痛くもかゆくもないですし、うちの店の幹部からみれば打てる手はなんでも打ちたいというのが本音だったでしょう。
だから、上司は事実上放任状態で、やりたい放題でした。
ただ、あたしにとってそれ以上に問題だったのが、アイデアの中身でした。
(…はあ)
あたしはその日休みを潰して、急遽作ったビラを撒いていました。寒さで今にもがたがた震えがきそうなのをこらえながら、です。
コートでも着ていればまだよかったんですが、今回はそういうわけにはいきませんでした。
サンタのコスプレをして、クリスマス気分でお客様をその気にさせようというのが、その時のテーマだったからです。
ただ、だからって、何もミニスカサンタにすることはないと思うんですけど(泣)。
白いフリフリのついた赤い服の上下は、販促というよりむしろ忘年会の罰ゲームにピッタリなほどでした。
自分の姿が恥ずかしくて仕方がありません。
それに、どれだけ効果があるのかは怪しいものでした。デパートの雰囲気とはかけ離れ過ぎていましたし。
風で時折ひらひらする赤いミニスカートを、うちの店には到底来てくれそうにない服装の男の人たちがちらちらとみていました。
彼らにとっては今にも見えそうな格好のコスプレ女は見るに値するものだったんでしょうが、あたしはたまったものじゃありません。
意識しないように視線を切ったものの、立っていればいるほど自分のやっていることに疑問が湧いてきます。
これ、絶対、効果ない。
もう休みに入っていたからか、平日だというのに街の人手は多かったです。でも、ビラを受け取ってくれる人はまばらでした。
どこかのお店が流しているんでしょう、クリスマスソングが響く街は華やかでした。
けど、それは仕事中のあたしにとってはなんの慰めにもなりませんでした。余計に空しいだけです。
サンタの格好ではありますが、気分はマッチ売りの少女に近かったです。
特に、デート中らしきカップルがいっぱいいるのは、独り身のあたしにはこたえました。
(みんな、この後ホテルにでも行くのかなぁ…あーあ)
クリスマス前の独り身なんてこんなものです。
根が男の人好きなあたしは、うらやましくて仕方がありませんでした。
数年来、クリスマスのデートなんてご無沙汰だっただけに、なおさらです。
ビラを配りながらも、あたしはつい彼らのこの後の展開に思いをはせていました。
(あ、あのカップルあんなにイチャイチャしてる…でも、ちょっと初々しいな。もしかして、これから初エッチだったりして。…いいなあ)
男好きの例に漏れず、あたしもエッチは大好きです。
それだけに余計に気持ちがささくれ立って、最初は八つ当たりさえしたい気分でした。
もしお酒でも入っていたら、絡み酒になっていたことでしょう。
ただ、そんなことばかりを考えているうちに、何だか身体がムズムズしてきました。
一旦こうなると、短いスカートの中に吹き込んでくる寒風さえ、ちょっと刺激的に感じてしまいます。
みじめさと性欲の入り混じった何とも言えない気分で、あたしはそのまま数時間を過ごしました。
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あたしがその男性の姿に気が付いたのは、日が暮れてきて、余計に寒さが増してきたころでした。いつの間にか、あたしから少し離れた位置で、彼はあたしと同じようにビラを配っていたんです。受け取ってもらえないのはあたしと似たり寄ったりなようで、かなり苦戦しているようでした。
くしくも、恰好まで同じサンタ姿です。もちろんミニスカではなくズボンをはいていましたが、同じ姿をしているというだけで何となく親近感がわきました。
なんとなくチラチラと彼の方を見ていると、ふと、視線が合いました。
そこまでなら、ビラ配りにはよくあることでしょう。
驚いたことに、彼は持ち場を放棄して、あたしに近づいてきたんです。
「あんたもどっかの店のビラ配り?」
「はい。お互い大変ですよね」
声を掛けてきたことにはびっくりしましたが、無駄としか思えない作業にウンザリしていたあたしは、内心嬉しく思いました。
サンタの帽子を被っているのが滑稽ではあるものの、近くで見るとなかなかあたし好みの顔です。
「ご苦労様。こんな寒い中、やってらんないよなあ」
「ホントに。それに受け取ってもらえないものですね」
「ああ、そりゃデフォ。当たり前だよ、俺だって受け取らねえもん」
「言われてみれば、あたしもそうですね」
「だろ。やってらんないよ、上もわかってないよなあ」
上司命令なのまで同じようでした。でも、同業者同士で苦悩を分かち合うのは、悪いものじゃありません。
あたしはこの日初めて、すこし楽しい気分になっていました。
「ま、もう少しだしな。あんたは?」
「あたしももうちょっと…かな」
「じゃ、お互いもうひと踏ん張りするか。頑張ろうな」
そういって、彼は元居た場所に戻っていきました。
見も知らない人でしたが、それでもちょっと仲間意識が湧いて、あたしは、さっきまでよりはかなりいい気分で仕事を再開したんです。
陽がすっかり沈んでイルミネーションが目立つようになるころ、ようやくあたしの仕事は終わりました。
もう、手が寒さですっかりかじかんでいます。
それでもホッとしていると、後ろからポンと肩を叩かれました。
「見た感じ、もう仕事終わりかと思ってさ。だろ?」
「よくわかりましたね」
「ま、慣れてるからな。様子でなんとなくわかる」
あのサンタさんの格好をした男性が立っていました。
手には2つ、温かそうな缶コーヒーを持っています。そのひとつを、彼はあたしに手渡しました。
「え、なんですか、これ」
「差し入れ」
「えー、ありがとうございます!」
「いやいや。それでさ、時間あるならちょっと同業者同士、話でもどう?」
あ、ナンパだ、と思いました。
向こうの仕事が終わったのかはわかりませんが、それにしてもこういう人って時と場所を選ばないものなんだなあと思いました。
どこで職場の同僚が見てるかもわからないのに。
もちろん、彼が本当にしたいことも、おおかた予想はつきます。
ですが、あたしは彼の提案を、面白いと思いました。
缶コーヒーがありがたかった、というと何考えてるんだって思うかもしれませんが、その程度の理由でした。
上司の無茶にウンザリしていたあたしにとっては、そのちょっとしたやさしさが嬉しかったんです。悪い人には見えなかったし。
それに、もともと男の人好きなんです。そんなあたしが一日中カップルを目にし続けた効果は、絶大でした。
デートしたくて仕方なくなっていたんです。
このままいけば今夜は好みの男性とデートってことになるだろうし、あわよくば彼氏にもなってくれるかもしれない。そうなったらいいなあって考えたんです。
店に帰るのは少し遅れますが、どうせ給料がでるわけでもありません。
出るのは、割に到底合わないご飯1回分のお金だけです。
どうでもいいやと思いました。
だいたい、休日を潰して恥ずかしい思いをしたんだもの。これくらいのご褒美はないとやってられないよね。
「いいですよ。それで、どこで休みます?」
あたしは、ごくあっさりと承諾の返事を返したんです。
我ながら尻軽だなあとは思いましたけど。
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カテゴリ:デパガのエロ体験談(女性視点)