気が付いた時、視界には天井がゆらゆらと揺れていた。
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なんだ…ここは。
確か飲み会にでて…吐いて…明美が目の前にいて…
元々酒に強いのが幸いしたのだろう。
まだかなり酔いは残っていたけれど、正気だけはすぐに取り戻した。
ベッドで寝ていたようだ。
この部屋は…どこだ?
「あ、気が付いた?」
横を見ると、明美が座って心配そうにこちらを見ていた。
「…あ、あれ…ここは?」
「あたしのアパート。まだゆっくり寝てていいよ」
「ああ、いや…だいぶマシにはなってるから、大丈夫…」
「ホントに?」
「…悪い。水だけもらっていい?」
「あ、ちょっと待ってね」
彼女が持ってきてくれた水をぐいぐいと飲んで、ようやく一息ついた。
視界が現実感を取り戻してくる。
「もしかして運んでくれたわけ…?」
「肩貸した程度だよ。あなた、歩くのはちゃんと歩けてたし」
「そっか…」
「というか、あれだけ酔っててもう持ち直すのがすごいよ。本当に強いんだね」
「そこだけは取り柄なんだよ、昔から」
多少グラグラした感じはあったけれど、僕は体を起こし、ベッドの上に座った。
6畳くらいだろうか。
飾り気のない部屋。
けれど、部屋の隅の衣装掛けに掛けられた洋服が、ここが女性の部屋であることを主張している。
はじめてみた彼女の部屋は、こういうと何か変態っぽいけれど、女性らしいいい香りがした。
「びっくりしちゃった。あんなにお酒で弾ける人だっけ?」
「いや、面目ない…ついね」
彼女のことを気にしてわざとハメを外したとはとても言えない。
それが彼女にとって救いになったかはあやしいものだったし、なにより恩着せがましすぎる。
だが、彼女は察していたようだ。
「…ごめんね」
小さな声で、視線を落として言った。
「あたしでしょ。原因」
「え、あ、いやその…」
「見ればわかるよ。いきなりだし、不自然だったもん。」
「…」
「ごめん」
「…いや、謝る話じゃないだろ…」
そもそも、いくら明美の素行によるものとはいえ、同僚にどうこう言われるようないわれはない。
「あたしの話、聞いてるでしょ?」
「ああ…」
「幻滅してる?」
「もしそうだったら、付き合ってないよ。大体、ただの噂話だし」
「ありがと。でもね、言われてることはホントだよ」
苦笑いをした明美の感情は、読み取れなかった。
「まあ、浮気女っていうのはちょっと反論したいけどね」
「…」
「一晩限りだもの。浮気って話にもならないでしょ」
「…」
「そうなんだよね…悪い癖だとは思ってるんだけどね」
どう返事を返したらいいのか、経験の少ない僕にはよくわからなかった。
無言でいるしかなかった。
ひとりごちるように、彼女が言った。
「でもさ、気持ちいいんだよね…色んな男とするの…いつからだか、やめられなくなっちゃって」
「…」
「あはは、これじゃ、まるでヤク中の人みたいだよねえ…」
力のない笑いを浮かべる彼女。
凄まじいことを口にしながらも、その姿は寂しげだった。
本来、ここで僕は友人として、力づけるようなことを言うべきだったのかもしれない。
けれど、情けないことに、僕の頭の中はそれどころではなかった。
彼女からここまで直接的にその手の話を聞いたのは初めてで、彼女の「ヤリマン」としての顔をはじめてみてしまった衝撃は相当なものだったのだ。
人づてに聞くだけなのと、本人から直接ぶつけられるのでは、インパクトが違いすぎる。
心の中に、普段抑えていた欲求が、ふつふつと沸き上がってきた。
もっとも、それで即行動に出るくらいの度胸があるなら、僕はとうの昔に童貞ではなくなっていたはずだ。
それに、彼女と今の関係を続けることの方が、僕にとってははるかに重要だった。
それだけにまずいと思った。
幸い、まだ彼女は僕の心境の変化には気づいていない。
今なら、まだ十分にごまかせる。
「そ、そう…」
なんとか平静を装って返事をする。
僕はかなり無理矢理ではあったけれど、なんとか欲求をねじ伏せていた。
ただ、それがもったのは最初だけだった。
間の悪いことに、酔いが回って制御が効かなくなっていたのは、彼女も同じだったのだ。
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「だけどねえ…あの人たちにその辺、言われる筋合いはないんだよね」
「そうだよな」
「関係ないじゃん…あたしが誰のちん●ん咥えてようがさ…」
多分彼女は、ただ身も蓋もなく、思いのたけを吐きだしたかっただけだっただろう。
それに値するストレスは受けていたはずだ。
だが、話の題材が題材だし、酔いのせいで、言い方にもまったく遠慮がない。
淫語まじりのあからさまな一言は、僕の欲望を燃え立たせるには十分すぎた。
正直、こんなに興奮したのは、生まれて初めてだったかもしれない。
一旦こうなると、女性の全てが性的に見えてくるものだということを僕は知った。
明美の薄手の白いブラウス。
よくみれば、その表面にはうっすらと下着の線が浮き上がっている。
身体を動かすごとに肩口にチラチラと見える、光るひも。
ブラジャーだろうか、キャミソールだろうか…
目線がどうしても引きつけられる。
意識しないようにとは思うのだが、どうしても意識がそちらに向いてしまう。
普段だって、ナースルックから下着が透けて見えるくらいのことはよくあったのに。
今目にしている彼女の姿は、病院で語り合っていた彼女の印象とは別物だった。
なぜ、今まで僕は、こうならずに済んでいたんだろう。
それが不思議なくらいだった。
「あ、…ごめん、凄いこと言っちゃった」
さすがに彼女も自分がどういうセリフを言ったのかを自覚したようだ。
「み、水、もう一杯飲む?持ってくるねっ!」
慌てたように勢いよく立ち上がった。
片膝を立てた拍子に勢いが良すぎたのか、スカートが乱れ、一瞬だったが中がチラリと見えた。
僕はファッションには疎いのだが、透ける素材を幾重にも組み合わせたような、女性的なスカート。
布地自体の重さはほとんどなさそうに思える。
そのスカートの奥に光るレースが見える。
裏地か、それともキャミソールか何かか。
いずれにしても、それが結果的には僕の欲求への決定打となった。
ただでさえ必死に欲求を抑えていた状態だった僕は、これでますます動揺してしまったのだ。
あれだけ酒が回っていたにも関わらず、気が付くと股間がいきり立っていた。
股間の上で手のひらをさりげなく組んで、何とかごまかしているだけの状態だ。
何とか、何とか抑えないと。
「お待たせ!さ、どうぞ」
「あ、ああ、ありがと…」
彼女に小さなボトルを渡される。
お礼を言いながらも、僕は彼女への視線を無理に一旦切って蓋を開けた。
まずはこれを飲んで落ち着かなければ。
片手で膨らんだ股間を無理矢理隠しながら、もう片方の手でボトルを口にもっていく。
だが、僕はやはり混乱していたのだ。
気もそぞろになった僕は、中途半端に口につけた状態のまま、ボトルを傾けた。
口に流れ込まなかった分の水が、顎を伝ってびちゃびちゃと大量にしたたり落ち、僕の服を濡らした。
「あ、やっぱりまだ酔ってる…ちょっと、拭かなきゃ」
断る暇もなかった。
明美は手近にあったティッシュを素早く手に取り、腰を浮かした。
そして、拭くのに邪魔になる僕の手を払いのけたのだ。
股間を隠していた僕の手を。
限界まで膨張した僕の膨らみが、彼女の目前にさらされた。
腰を浮かせて僕の膝のあたりに顔を寄せている彼女から見れば、文字通り、目の前。
ズボン越しとはいえ、大人の女性であれば、その意味を察しないわけもない。
彼女の視線が凍り付くのが、見下ろす僕にもはっきり分かった。
「…あ、ご、ごめん…あんな話しちゃったからかな…あはは」
「あ、あはははは…」
「もう、エッチだなあ、あはははは…」
冗談めかした口調で、何とか流そうとする彼女。
僕も往生際悪く、虚勢を張った。
「あははは…まあ、男だからね…自然に反応しただけだから勘弁してよ」
「そりゃ本能だもん、嫌でもこうなっちゃうよね、ごめん」
かろうじてそう笑いあってはみたものの、雰囲気はかなり白々しかったのは否めない。
それに、彼女にみつかったのがよけいにまずかった。
自分でも予想外だったが、彼女に見られていると思うと、余計に興奮が高まってしまったのだ。
勃起具合は、さっきよりも激しくなっている。
「ね、ねえ、それはいいからさ、ちょっとそれ、落ち着けてよ…」
「そ、そうだね…」
言ってはみたものの、股間に血流が流れ込むのは止めようがなかった。
いつまでたっても収まる気配は微塵もない。
いつの間にか、僕の肌にはツブのような汗がにじみ出ていた。
僕には既に、この状況を冗談として済ませられるだけの余裕はなかった。
そんな状態だ。
自然、目つきや雰囲気にも、性欲がにじみ出ていたんだと思う。
今まで彼女には努めて見せなかっただけに、余計に雰囲気の差は露骨だっただろう。
その違いは、彼女に普段の僕との違いを察させるには十分すぎたはずだ。
「あの、もしかしてホントに、本気で興奮しちゃってる?」
ややあって、彼女がポツリと言った。
こちらをじっと見上げている彼女。
表情にはまだうっすら笑みが残っていたが、冗談めかした雰囲気は声からかき消えている。
「何言ってるんだよ、そんなんじゃないって」
「いつもと目つきが、全然違うよ」
ああ、もうごまかせない。これは、嘘をついたところでバレる。
「…悪い、本気で興奮してる」
仕方なく、僕は白状した。
「ふーん…ふふっ」
唐突に明美は笑い始めた。
「あははっ、なんか、おっかしい…」
何がおかしいのかは全く分からなかった。
狐につままれたようになっていると、彼女は言った。
「あははっ、そっかぁ、あなたも、やっぱりそういうHな目、するんだね」
「ホント悪い…」
「いいよいいよ…、でも、意外だったな。あなたそういう感じ、今まで全然しなかったから」
「うまくごまかせてたんだな」
「うん、…できれば、そのままでいたかったな」
「ん?」
意味が分からなかった。
「自分でもワケわかんないんだけど、そういう目で見られてるってわかったら、あたし、何でか我慢できないの」
「えっ…?」
「男遊びはそういうわけ。院内でだけはなんとか抑えてたけどね…」
彼女はもう、笑っていなかった。
「そんなんだから、せめてHした相手とはそれっきりにしてるの。付き合い続けたってロクなことにならないのはわかってるから」
「…」
「たぶんもうあたし、頭がどうかなってるんだよ…だから仕方ないのかな。あはは…」
から笑いだった。
ひとしきり沈黙が流れる。
僕はもう何も言えなかった。
「…でも、できればあなたとは、そんなこと抜きの、ただの友達でいたかったな」
こんな寂しげな彼女ははじめてだった。
何も知らなければつい慰めずにはいられなくなってしまいそうな、今にも壊れそうな雰囲気。
それなのに、僕は何も言えなかった。
いや、彼女の異様な変化に圧倒されていたというのが、より正確だ。
全体を見れば儚いとしか言いようのない表情なのに、瞳だけが明らかに不自然に潤み始めている。
経験のない僕でもわかるくらいに、あからさまに欲情しているのが伝わってくる顔。
そして、彼女の顔がいきなり近づいてきた。
舌が僕の口をこじ開けて、中に入ってきた。
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